はじめに
秋は「食欲の秋」といわれるほど、美味しい食材が豊富な季節です。
栗や柿、きのこ、秋刀魚や鮭など、季節を感じる旬の味覚はとても魅力的です。
しかし、透析患者さんにとってはカリウムやリンの摂りすぎが命に直結するリスクを上げる可能性があります。
今回は、代表的な秋の食材について「100gあたり」と「1個・1尾・1切れあたり」の栄養素を整理し、
安心して秋を楽しむための工夫をご紹介します。
秋の代表的な旬食材と含有量
🌰 栗(ゆで)
- 100gあたり:カリウム 約460mg/リン 約72mg
- 1個(約20g)あたり:カリウム 約92mg/リン 約14mg
👉 5〜6個食べるとバナナ1本(可食部100g:カリウム360mg)相当〜それ以上のカリウムに達します。
つい食べすぎやすいので注意が必要です。
🍊 柿(生)
- 100gあたり:カリウム 約170mg/リン 約14mg
- 1個(中サイズ・約200g)あたり:カリウム 約340mg/リン 約28mg
👉 「柿を食べすぎて高カリウム血症を起こした」という報告もあります。1日半分程度にとどめるのが安心です。
🍄 きのこ類(しいたけ・まいたけ・しめじ等、生)
- しいたけ(生・1枚15g):カリウム 約44mg/リン 約13mg
- しめじ(100g):カリウム 約370mg/リン 約96mg
- まいたけ(100g):カリウム 約230mg/リン 約54mg
👉 ヘルシーな印象がありますが、量をとるとカリウム負担が大きくなります。ゆでこぼしや水さらしで減らす工夫が有効です。
🐟 秋刀魚(さんま・生 1尾150g前後)
- 100gあたり:カリウム 約200mg/リン 約180mg
- 1尾(150g可食部):カリウム 約300mg/リン 約270mg
👉 丸ごと1尾食べるとリンが多くなります。リン降下薬を服薬されている患者さんは飲み忘れに注意しましょう。
🐟 秋鮭(しろさけ・生 1切れ80g前後)
- 100gあたり:カリウム 約350mg/リン 約240mg
- 1切れ(80g):カリウム 約280mg/リン 約192mg
👉 焼き魚や鍋で人気ですが、カリウム・リンともに多め。週に数回・少量が理想です。
カリウム・リンの摂りすぎがもたらすリスク
- 高カリウム血症
→ 致死的な不整脈につながる危険性があります。
- 高リン血症
→ 骨粗鬆症や血管石灰化を引き起こします。
骨粗鬆症は骨折につながりますし、心臓の血管が石灰化すると心筋梗塞につながります。
透析患者のカリウム摂取は1日2,000mg以下、リンは800〜1,000mg程度が望ましいとされています。
※適正なリン摂取量は、たんぱく質摂取量(g)×15mg/日以下を目安に推定されます。
ただし、必要量は体格や栄養状態によって前後します。
*とはいえ、最近では、「野菜や果物から摂取するカリウムは血清カリウム値をそれほど上げないかもしれない」ことや、
「やせ型の高齢者には血清リン値を無視してでも食事摂取量を維持する方がいい」ことなどが、学会でも議論されています。
大事なのは、重ね食い(秋刀魚を肝まで食べて、デザートに柿も栗も食べる)や
カタメ食い(「いただいたから」といって一度に柿を3個も食べる)などをしないことだと思います。
バランス良く食べていくことで、旬の味覚を楽しみましょう。
食欲の秋を楽しむための工夫
- 調理で減らす:ゆでこぼし・水さらしを徹底しましょう。
- 量で調整:「1個丸ごと」ではなく「半分だけ」「少しずつ」を意識しましょう。
- 薬を忘れない:特にリン降下薬などの常用薬は忘れずに服用しましょう。
- 栄養士に相談:食べたい食材をどう安全に取り入れるか一緒に考えましょう
まとめ
秋の味覚は魅力的ですが、透析患者さんにとっては「量」と「調理法の工夫」が命を守るポイントです。
「1個」「1尾」「1切れ」でどれくらいのカリウム・リンになるのかを意識しましょう。
ちょっとした工夫で、旬の味覚も安心して楽しむことができます。
当院では、管理栄養士による栄養指導も定期的に行っております。
食事や食材の選び方で迷ったときは、どうぞお気軽にご相談ください。
📚 参考文献
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